<5月> 【907】
盆梅や育たぬやうにかくる手間 石川まゆみ
向き合っていつもの茶碗春炬燵 木佐 幸枝
わが人生小吉なるか寒あやめ 甲島美智子
点滴の父残し去ぬ冬北斗 佐伯 三葉
春の日を掬つて編んでベビー服 高田久美代
土くさきものに汚れて冬厨 竹下 玲子
葱きざむ「どじょっこ」の唄口遊み 田中美代子
葉を落とし木立はすでに春支度 田村ひろこ
はつこひは数へ九つ枯木星 永井 勝弘
湯疲れの柚子のぽかぽかしまひ風呂 原田 妙子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
降り止まぬ雪よ神様ごめんなさい 守屋 直子
窓拭くや淑気満ちたる空の青 長田 匡白
ストーブを寄せて一人の昼餉かな 佐々木紀枝
新聞紙に包むコロッケ餅あはひ 齋藤 靖恵
そつと踏めば銀箔散らす霜柱 菅原 理恵
~”夕凪作品Ⅱ”から~
娘に贈るコサージュにせむ花菫 吉尾 隆恵
水仙に競ひて背すぢ伸ばしけり 大津 洋子
鶴舞ひて首のあたりの風動く 吉武 渉
日脚伸ぶ笑顔良き子と歩を合はせ 高橋 茂子
剪定や紅色滲む枝の芯 中村 長幸
~”夕凪俳句《白雲集》”から
<4月> 【906】
天よりも地上まぶしき露の朝 石田みつ子
白菜に食い込む虫も生きる術 稲谷恵美子
冬晴やひとつ五がある通信簿 佐々木順子
一声で笑顔とわかる初電話 伊藤 登
風花や戦の国へ続く空 刀祢 紀子
カップ麺啜る小屋裏飾売 有井まさ子
福相は土偶にもあり小春かな 田村ひろこ
福寿草平均寿命に辿り着き 定成 俊明
携帯に消せぬアドレス冬銀河 丸山 康子
初夢の中まで妻の言ひなりに 安部 弘
~”夕凪作品Ⅰ”から~
大岩の紙垂の青めく淑気かな 浜野真李花
裸木のハグする如き枝ひろぐ 長田 匡白
日脚伸ぶ蕾に問へば「まあだだよ」 齋藤 靖恵
福笑ひ地球の地軸捩れをり 小林 昭博
波裂けて龍暴れ出るお正月 茅野 昭恵
~”夕凪作品Ⅱ”から~
煮こごりと箸にかからぬ「私」と 下峠ゆう子
冷たさを人工骨の痛みより 谷川 瞳
我が肩に寝釈迦のごとき落葉かな 吉武 渉
研ぐ米のこぼれを拾ふ霜夜かな 高橋 茂子
山眠る陶芸窯の火は揺れて 吉尾 隆恵
~”夕凪俳句《白雲集》”から
<3月> 【905】
裏返る技も見せつつ朴落葉 淺田 洋子
腰までの泥温かく蓮根堀 有井まさ子
方方に飾るおもひで草の花 すずき穂波
侘助や夫の相槌一つ欲し 髙橋 康代
おほかたは名をもたぬ山冬紅葉 竹下 玲子
廃校のノブは真鍮初時雨 永井 勝弘
屑籠に溜まる墨の香霜の声 西尾 智子
盲目の人秋冷を言ひにけり 藤本智恵子
大根に鼠の尻尾のごときもの ふるもと俊子
ふくろふのこゑに星たち消え入りぬ 山川 游
~”夕凪作品Ⅰ”から~
読み止しの本鞄にも炬燵にも 菅原 理恵
須佐之男命老いたり里神楽 齋藤 靖恵
午後の陽をみな集めをり帰り花 浜野真李花
俯瞰する町のアートや火の見櫓 長田 匡白
猪垣の中に五枚の我が畑 堀尾 知子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
呼びにやれば皆囚はるる焚火かな 下峠ゆうこ
潜水艦浮いて冬日に晒さるる 高橋 茂子
初鏡ひげ剃る夫が割り込めり 吉尾 隆恵
行く秋や白斑見せて鳶ゆたか 久保 勝子
あの時の先生の帽赤い羽根 坂木 寿枝
~”夕凪俳句《白雲集》”から
<2月> 【904】
軽トラより降り立つ生徒初時雨 角 葉づき
身に入むや同期名簿に増す「故」の字 植田トモ子
もつと赤くもつと赤くと惜しむ秋 水口 佳子
あるなしの風の行方の草の絮 石田みつ子
新涼や子と住むことの決まりおり 小原 桂子
笑ひつつ語る持病や室の花 有井まさ子
自分時間の未だ未だ遠く梅鉢草 西尾 智子
アラベスク風船かづら熟れにけり 松﨑 文子
やうやくに秋が呼吸をはじめたる 藤本智恵子
小春日のあんこ跳び出す玉羊羹 田中美代子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
秋うらら野風呂の果ての薩摩富士 矢野いつゑ
戦せぬ国であること文化の日 伊藤千鶴子
秋日傘次の土曜日空けといて 守屋 直子
新藁の匂ひ纏ひてにぎり飯 茅野 昭恵
見ぬちさびしきもの住めり曼殊沙華 浜田 幸子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
黒牛の息なだらかや冬銀河 下峠ゆうこ
秒針の震へて刻む冬隣 半田 白鈴
廃業をここも告げしか雁渡る 吉尾 隆恵
ひとすぢの煙の揺らぐ刈田かな 木下ゆり子
秀麗や敗者しづかに擦れちがふ 吉武 渉
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
令和六年<1月> 【903】
新米や富士山の如御仏飯 稲谷恵美子
無花果は混沌の色濃くしたり 木佐 幸枝
秋灯追伸長き母の文 甲島美智子
集会所より歌声もるる萩の径 佐々木美登里
秋果盛る雲の白さの卓布かな 柴田 和子
秋の雲しんがりを行く持久走 高田久美代
鬼の子と老女の対話なにぬねの 伊達みえ子
路地裏のマンドリンの音今日の月 内藤 鈴枝
底紅や昨日の新聞持ち歩く 平田香都子
秋うらら野に置いて来る鬱の種 藤本 陽子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
本の帯ゆつくりと読む良夜かな 長田 匡白
乱れ萩残し置きたし父母の家 武藤 晴子
長き夜やまた読み返す「富士日記」 菅原 理恵
屋号なら星座がよろし暮の秋 茶屋 七軒
魯山人の皿は無くとも初さんま 浜野真李花
~”夕凪作品Ⅱ”から~
ひだるきと恋しきは似て烏瓜 下峠ゆう子
秋ざくら今日閉鎖せし製鉄所 吉武 渉
金風や止め撥ね太き命名書 吉田真知子
虫しぐれ音符湧き出る四重奏 吉尾 隆恵
車座の話の中にいぼむしり 久保 勝子
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<12月> 【902】
鉄道草ふりつつ母に会ひにゆく 石川まゆみ
人生の午後も又よしマスカット 大久保信子
塾の戸に「通い放題」千日草 叶堂三恵子
「なんでできないの」二歳の夏終る 齊藤たえ子
貨車は行く夏草の息けちらして 佐々木美登里
かげろふの命おんおん泣く君よ すずき穂波
折鶴を折っても折ってもヒロシマ忌 伊達みえ子
あれもこれも忘れたことに恋蛍 戸板 幽詩
かなかなや夜は影絵のやうに来る 長尾良志子
合歓の花その枝ぶりのやゐゆゑよ 松崎 文子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
仏桑花とまれ訪ふ真珠湾 佐伯 三葉
群れが群れ押して進めり秋茜 田村ひろこ
急かさるるやうに鳴き初むつくつくし 原田 妙子
ひんがしの文をもてこよ赤蜻蛉 茶屋 七軒
唐辛子いづれおとらぬ自己主張 ふるもと俊子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
木喰仏の鑿跡たどる秋の蜂 尾関 香
あとがきの余白を埋める虫の声 齋藤 靖恵
夕蜩どこかへ連れて行かれさう 下峠ゆう子
スケルトンの自動ピアノや水の秋 小林 昭博
教室ににほふワックス秋暑し 菅原 理恵
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<11月> 【901】
噴水の折りたたみつつ静もれり 淺田 洋子
「検索」の奥へ隙間へ御器かぶり 石川まゆみ
日焼の手曝すブティックセールかな 木村 幸枝
虫の音に包まれながら顔パック 斉藤久美子
ど忘れを引きずって来て麦秋 すずき穂波
川風のきれぎれ届き夏祓 竹下 玲子
噴水に投げてもみたきゴムの毬 田中美代子
水鉄砲襁褓の兵士泣きじゃくる 刀祢 紀子
汗どつと眉を読まれてしまひけり 藤本智恵子
縮みたる海馬飼ひ馴らして氷菓 藤本 陽子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
太りては空を転がす露の玉 ふるもと俊子
疲れ目を昴にあづけ熱帯夜 山川 游
どつかりと蔵の影置く暑さかな 原田 妙子
読経ものせてゆく風夏座敷 田村ひろこ
ちりほどの蜘蛛の子も張る金の糸 佐々木紀枝
~”夕凪作品Ⅱ”から~
十三夜ゆるゆる外す腕時計 下峠ゆうこ
川底にとどむる砂紋広島忌 尾関 香
月桂樹の青き香を干す今朝の秋 齋藤 靖恵
終戦日くろがね色の噴火口 吉武 渉
梅雨明けや紙飛行機は向ひから 沖山 純子
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<10月> 【900】
落し文通り過ぎふと後戻り 淺田 洋子
「考える人」の頭上を若葉風 石井 晴江
忘却を生きて笑顔の君に薔薇 石田みつ子
AIの音声ニュース青葉木菟 木村 幸枝
雲の峰駆け上がりたる逆上がり 角 葉づき
蛍狩り背ナに寝息の安らけし 徳毛 佳美
転生の友か夏蝶窓に舞ふ 内藤 鈴枝
風秘か木の間隠れに夏の月 長尾良志子
末枯やずしりと太き牛の足 村本 恭三
短夜の一音となるコルク栓 森野智恵子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
古民家の三和土まだらか送り梅雨 佐伯 三葉
噴水は白き花束爆心地 田村ひろこ
うかうかと忌日過ぎたり沙羅の花 品川 映子
ソーダ水ジャズのかすかに北野坂 浜野真李花
夕立晴れ志功の鼻歌は第九 廣藤 景子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
夏雲や鶏は地を啄みぬ 下峠ゆうこ
朝曇猫知らぬかと問はれをり 齋藤 靖恵
月見草夜間工事の影まとふ 久保 勝子
箸先の豆腐の固し夏座敷 菅原 理恵
八月来雑音入るカーラジオ 小林 昭博
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<9月> 【899】
手庇に阿蘇の青野の牛の数 安部 弘
空と海どちらの青も夏の青 伊藤 登
春めきて連弾の子の腕まくり 小原 桂子
惜春や辞書の真中に航空券 叶堂三恵子
告知爾後内臓色の躑躅かな すずき穂波
早暁の腕ぐるぐる時計草 髙橋 康代
校長のソバージュ茅花流しかな 西濵恵美子
日々みどり声出さぬ日の「アイウエオ」 平田香都子
目を閉ぢてをり万緑に囚はれて 藤川 里子
夏草に埋もるるオブジェ犬の耳 安田 恭子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
逆鉤つけ筍天をつくごとし 山川 游
八十八夜水田は星の降るところ ふるもと俊子
薫風や湖にひかりのあるばかり 田村ひろこ
薫風にニューヨーカーのごと闊歩 丸山 康子
鄙に住み達者でいます菖蒲葺く 茅野 昭恵
~”夕凪作品Ⅱ”から~
夕焼の窓連ねゆくジーゼルカー 尾関 香
縁側のある家遺り花南天 菅原 理恵
鎮魂の地に噴水の音響き 三上 芳枝
プランターに三株の田植風まとひ 浦田 啓子
とつときの話ひつさげ白靴来 小林 昭博
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<8月> 【898】
あとずさり出来ぬ人の世竹の秋 安達もとい
春雷や手術の痕にそつと触る 有井まさ子
囀に答へて小川唄ひけり 伊藤 登
病室の一人一城カーネーション 大久保信子
まず競う靴の尖りや新社員 木村 幸枝
若葉風入れてふくらむランドセル 高田久美代
聖五月翁のポシェット斜めがけ 髙橋 康代
結願の経はゆるりと飛花落花 永井 勝弘
行く春やパズルは一つ欠けしまま 登尾 圭子
寝ぢからの自慢の米寿夏に入る 村本 恭三
~”夕凪作品Ⅰ”から~
木下闇小町の墓はこの辺り 廣藤 景子
遠足の声のかたまり曲がりゆく 田村ひろこ
花筏分け船頭の名調子 佐伯 三葉
花万朶一会の人と道連れに ふるもと俊子
新茶濃く入れて自分を励ましぬ 藤綱美智子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
新茶汲む三男坊へ見合写真 齋藤 靖恵
体操の腕を伸ばせば初燕 吉尾 隆恵
広縁は母の仕事場花南天 菅原 理恵
落ちさうで落ちぬ大岩松の芯 半田 白鈴
雲を抜け銀河泳がむ鯉幟 浦田 啓子
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<7月> 【897】
気の置けぬ居場所はここと地虫出づ 淺田 洋子
蜃気楼いつか出兵載せる船 石川まゆみ
来し方を丸めて作る草の餅 木村 幸枝
生きんかなさくらさくらの透ける空 伊達みえ子
花吹雪千両役者ほど浴びる 田中 恵山
花冷えや親族との縁遠くなり 南 政之
つばくらめ一向減らぬ誤字脱字 平田香都子
颯爽と春の街ゆくふくらはぎ 藤本智恵子
鍬軽く打つはノックよ春の土 安田 恭子
平凡な暮し佳しとす花すみれ 山本富士子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
やはらかき風の生まるる夕桜 田村ひろこ
ひとのみなやさしさくらのさきたれば 山川 游
釣糸をたちまち囲む花筏 ふるもと俊子
靴の紐解けばひとひら花月夜 浜野真李花
海図なき大海原や卒業歌 堀尾 知子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
コサージュの雄しべの覗く春コート 齋藤 靖恵
入学や内気な吾子の姿勢よく 吉田真知子
甘夏のでこぼこ膚や師の訃報 尾関 香
蕗の薹ふわりと渡す妻の手に 矢田部博人
飛花落下ブルーシートを煽る風 菅原 理恵
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<6月> 【896】
せめぎ合ひ何を急ぐや雪解川 淺田 洋子
卒寿までの未来はあるか鞦韆漕ぐ 安部 弘
待春の抽斗一つ空つぽに 石田みつ子
我がために我が購ひし雛飾る 植田トモ子
水温むてんでに動く亀の四肢 鎌田 正彌
川底のさざれ石まで春日差し 小西佐和子
私にもありし少女期雛飾る 佐々木美登里
訪えば陽炎ばかり母校跡 伊達みえ子
年ごとに語彙のふゆる児雛霰 田辺 温子
照り返す春日釉薬赤瓦 森川 昌子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
流し雛離して思ふことあまた 田村ひろこ
春の闇キエフキーウと変はれども 廣藤 景子
立ち読みの本気になりて夕永し ふるもと俊子
せせらぎの日の斑を連れて春日傘 浜野真李花
痛みてふ生の証や初桜 山川 游
~”夕凪作品Ⅱ”から~
理科室の剝製の鳥春みぞれ 菅原 理恵
ふくふくと風ふくみたるねこやなぎ 尾関 香
春耕の土黒ぐろと種待てり 久保 勝子
春来る日々更新の歩数計 下岡美千代
朗読の声やはらかに蕗のたう 瀬戸けい子
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<5月> 【895】
寒月光薄き紙にも裏おもて 淺田 洋子
聖夜電飾「さくら隊の碑」ここに 石川まゆみ
あと二つバッグに予備の紙懐炉 石田みつ子
冬うらら父の握手の強きこと 叶堂三恵子
雪解の立木それぞれある温み 河野由美子
兄弟のそれぞれの空雪だるま 佃 あや
人混みの神社の裏の冬いちご 藤本智恵子
よろしくね番号付きのコート掛け 升田 浩子
土橋の次は木橋よ探梅行 水内 和子
薬玉や古き俳誌の巻頭句 村本 恭三
~”夕凪作品Ⅰ”から~
箸洗ふ音はトレモロ春きざす 田村ひろこ
母が舐め立たす仔牛や山笑ふ ふるもと俊子
春衣少し派手なる帯〆て 樋藤 純子
一膳の虫養ひのおじや哉 佐伯 三葉
癸卯の願ひまだあり初明り 長田 匡白
~”夕凪作品Ⅱ”から~
ダイヤモンドダスト十勝の朝の息 菅原 理恵
吾の影は冬木の影に紛れけり 齋藤 靖恵
散髪の鋏のリズム寒明くる 尾関 香
初弓の少女の袴やや長し 吉尾 隆恵
千羽鶴放てば舞ひぬ大とんど 半田 白鈴
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<4月> 【894】
折れるべきところは承知枯蓮 浅田 洋子
一打ちに土の息づく鍬始 大久保信子
マスクする眼力という太刀を持ち 岡崎宝栄子
初夢の北斗の柄もて地球洗浄 鎌田 正彌
年用意「要」はやはり女です 川崎益太郎
お転婆の嫁ぐ日けふは野菊晴 高田久美代
良き年をと言いて別るる冬木立 為安 恵子
初夢の途中めがねを取りかへる 藤本智恵子
待春の耳底に妖精を飼ひぬ 水口 佳子
ハンガーの丸みに毛皮寝て古りぬ 安田 恭子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
越年の戦火の街や朝陽さす 佐伯 三葉
一輪に声上ぐるひと梅二月 田村ひろこ
戦前とどこか似た風去年今年 伊藤千鶴子
予後の子と津和野へ旅行石蕗日和 品川 映子
大根抜く足裏大地へ力込め 原田 妙子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
寒灯や港への道教へられ 齋藤 靖恵
除雪車や轟音の沸き朝動く 吉尾 隆恵
海光や島の蜜柑は量り売り 浦田 啓子
検査後の画像うつくし冬夕焼 菅原 理恵
十年の癌を生きるや初日記 尾関 香
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<3月> 【893】
傘寿過ぎ遊びせんとや去年今年 有田 幸恵
人送る冬夕焼のまん中で 加藤 淑江
雪螢使わぬ井戸の底に空 木村 幸枝
梟の耳立つ夜の黒電話 すずき穂波
直角に曲ればそこは暮の秋 竹下 玲子
長き夜の眠りの奥を恐れけり 刀祢 紀子
綿虫の綿を落したのはわたし 西尾 智子
煮凝りや本当かしらこの記憶 平田香都子
小春の日何かころがしたくなりぬ 藤本智恵子
だまし絵の窓を覗くや冬の蝶 森 郁子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
星空は褒美のごとし夜半の秋 田村ひろこ
小春日やゴブラン織をまとふ山 浜田 幸子
栞紐始めにもどし日記果つ 浜野真李花
背の高さ頼りにさるる十二月 佐々木紀枝
骨だけの傘の溜り場神の留守 品川 映子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
くねりゆく貨物列車や干布団 尾関 香
あやふやな境界線に茶が咲きぬ 齋藤 靖恵
官庁街銀杏黄葉の競ひ合ひ 菅原 理恵
冬ざれやはるかに続く道ひとつ 吉尾 隆恵
晩秋の舗道を急ぐ長き影 大津 洋子
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<2月> 【892】
鱗雲鋤き起こしたるやうにかな 淺田 洋子
筆下ろす墨池に香る朝の露 粟屋紀佐子
米袋腰で積み上ぐ豊の秋 岡田 匡恵
人の世を覆い隠して霧の海 木佐 幸枝
鈴懸の裸木父の腕と指 下末かよ子
うるさくてうれしくて友草虱 すずき穂波
白鳥の水面切りさく雄姿かな 角 葉づき
車窓背に居並ぶスマホ月今宵 永井 勝弘
修復成る朱の大鳥居秋日濃し 南 政之
手のひらの皺をひと撫で屠蘇の杯 村本 恭三
~”夕凪作品Ⅰ”から~
予後の身の娘の笑顔金木犀 品川 映子
空真青稲穂黄金の明日香村 丸山 康子
酒蔵のくねる大梁穴惑ひ 佐伯 三葉
いわし雲伊予の国へと続きけり 定成 俊明
背丈ほどの荒田ゆさゆさ小鳥来る 佐々木紀枝
~”夕凪作品Ⅱ”から~
遠山の移ろふ影や秋深し 尾関 香
駅ホームに棲みなれし鳩秋うらら 久保 勝子
雑踏に太き熊手をもてあます 下垣 淳子
小六月島より届く黒糖酒 齋藤 靖恵
流星やZOOM参加の同期会 菅原 理恵
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<1月> 【891】
長き夜や言葉の海を帆を立てて 植田トモ子
日曜はパパの昼飯小鳥来る 斉藤久美子
夫の口恙なきなり鵙の晴 佐々木美登里
百歳の破顔はれやか菊の酒 高田久美代
白髪の軽さ鳩吹く風の中 伊達みえ子
叱責に耐へる少年新松子 永井 勝弘
つづれさせ旧仮名でくる友の文 二宮千鶴子
父は下戸夫は上戸よ月を待つ 藤本智恵子
靴少し濡らして歩く草の花 水内 和子
群れるよりひとりの自由穴惑い 森 郁子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
龍淵に英女王は崩御せり 佐伯 三葉
遠銀河告知せらるる命あり 品川 映子
窯変の備前の壺へ吾亦紅 守屋 直子
新築の木の香畳香菊日和 原田 妙子
何事も頑張る君も敬老日 茅野 昭恵
~”夕凪作品Ⅱ”から~
交番の静かなる灯や銀木犀 齋藤 靖恵
傷多き勉強机良夜なり 菅原 理恵
ひらがなで名を呼んでゐる夕花野 大津 洋子
生きてゐる証よ汗のシャツを脱ぐ 坂本 寿枝
本心をつづる日記や曼殊沙華 吉田 真知子
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<12月> 【890】
お遊戯の歌吸ひ上ぐる秋の空 粟屋紀佐子
懸命に生きて機械化稲は稲 稲谷恵美子
風は秋不揃ひもよき八尾和紙 神庭 千世
島島が産んで育てる鰯雲 木村 幸枝
炎昼の歯科医のにぎる凶器かな 佐々木順子
月の稲架山は閑かに濡れてをり 波谷 櫻女
成り行きで守宮と同居する羽目に 藤本 陽子
途中からハミングになる黒葡萄 水口 佳子
耳打ちの息も日焼けの幼児かな 森野智恵子
夏休み引き算は十借りてくる 渡辺 聡子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
夾竹桃わが奥処に少年棲み 中村 峯子
終戦日考の年譜は欠けてをり 佐伯 三葉
秋日和手先ゆたかやフラダンス 河下 悦子
燕の子溺るるやうに飛び立ちぬ 叶堂三恵子
見守られ見つめるLINE秋入日 松﨑 文子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
輪切りして梨剝く父の太き指 菅原 理恵
泪夫藍の蘂失へば忘れられ 浜野真李花
荊冠の原爆ドーム白木槿 浜田 幸子
ランナーのひたひたと来る月明り 齋藤 靖恵
教室の喧騒吸ひて秋高し 吉尾 隆恵
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<11月> 【889】
酔芙蓉パンはしづかに発酵中 粟屋紀佐子
グラジオラス右頬打てば左ほほ 石川まゆみ
開け放ち田の字の座敷青田風 片木 節子
沢瀉や浅き緑の母の紋 佐々木美登里
唯一の出逢ひがすべて風薫る 戸板 幽詩
きしませて洗う飯碗風涼し 刀祢 紀子
歳時記を顎に腹這う夜涼かな 筈谷 美保
恐竜は爬虫類なのソーダ水 松見 弘子
鍵かけたままのピアノや晩夏光 森 郁子
そよめきの風の片寄る夏のれん 和木 永次
~”夕凪作品Ⅰ”から~
星涼しいつも歌ある母が逝く 丸山 康子
ひまわりや画布いっぱいにゴッホ居て 大草 克幸
叫ぶごと歌ふ拓郎大夕焼 叶堂三恵子
ポケットに鍵沈みをり原爆忌 松﨑 文子
青蔦や主居るやらをらぬやら 廣藤 景子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
似顔絵は眉をデフォルメ敬老日 小林 昭博
夜半の雨果てし夜店に迷ひ犬 半田 白鈴
三代の繰り出でてをり大神輿 浜野真李花
灯籠の蠢く水面被爆川 三上 芳枝
朝顔の水当番へチャイム鳴る 矢野いつゑ
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<10月> 【888】
空蟬は屍骸に非ず声幽か 鎌田 正彌
峰雲やことんと水車水をはく 佐々木美登里
待合の声も涼しく名を呼ばれ 谷本喜代子
屋上の小さき稲荷社雲の峰 刀祢 紀子
大百足くの字のの字の命乞ひ 内藤 鈴枝
散ることを忘るしあわせ水中花 波谷 櫻女
二回ほど鳴いて初蝉それっきり 堀江 広恵
花いばら有無を言はせぬ姉の声 村本クニ子
シャガールの馬現れる雲の峰 森 郁子
月見草浜辺に拾ふ片ピアス 森野智恵子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
紫陽花の青こそ佳けれ青愛す 有田 幸恵
ひとり夜を酌み交したき貌佳草 松崎 文子
父の日に父の元気を貰ひけり 守屋 直子
リュックからどんとはみ出す夏大根 丸山 康子
能書を聞きつつ父と鮎の宿 青木 洋子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
職歴のたつた一行胡瓜揉 浜野真李花
出番前楽屋にバナナ香りをり 菅原 理恵
夕空に紛れてしまふ花樗 坂本 寿枝
鳴り続く踏切音の灼かれをり 小林 昭博
かかかつと雨傘まろび雲の峰 齋藤 靖恵
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<9月> 【887】
泰山木の花のりんりん三吉碑 伊達みえ子
ナビのなき八十路を進み夏の霧 村本クニ子
若葉風すぐ満席の縄電車 淺田 洋子
雲の峰音戸の瀬戸に朱の二橋 鎌田 正彌
ガラス器の魔法にサラダ涼あふる 安田 恭子
捨てがたき無点の一句梅雨の月 柴田 和子
新樹蔭独り吟行気取りみる 安達もとい
雨しきり甘藷の苗の立ち上がる 垣本 久子
田の水のさざ波たちて風薫る 谷本喜代子
薔薇園や介助の人も弾む声 岡田 匡恵
~”夕凪作品Ⅰ”から~
「ゲルニカ」の女はわたし虎が雨 中村 峯子
恋を恋ふ齢にあらず葱坊主 伊藤 登
記憶なき博多埠頭や夏霞 定成 俊明
雨土の恵み豊かに田水張る 平石かよ子
キャンプの灯消えたる後のひと騒ぎ 浦島 恭子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
夏空や岬へ続く牛の道 矢野いつゑ
夏立つやウェストポーチに鍵一つ 菅原 理恵
水無月の駅を行き交ふストライプ 齋藤 靖恵
声高に読上算や雲の峰 浜野真李花
夏近し四肢震わせて泣く赤子 山城みや子
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<8月> 【886】
花は葉に今日より他郷空仰ぐ 戸板 幽詩
初夏や釣糸垂らし海になる 伊丹 典惠
車椅子の夫の靴買ふ立夏かな 垣本 久子
卒寿てふおもひをしかと青き踏む 佐藤 房子
桃咲くや吉備国原のなだらかに 柴田 和子
桜蘂降るしんしんとしんかんと 竹下 玲子
正面に瓦礫るいるい蝶の昼 伊達みえ子
老鶯や自販機だけの山のカフェ 筈谷 美保
新樹光いつしか吾も透き通る 平田香都子
ヒロシマの地べた空蝉の無声 水口 佳子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
栴檀の花の香揺らす零雨かな 中村 峯子
はくれんや初パンプスの笑ひ声 松崎 文子
春潮の舞台に迫り能佳境 平石かよ子
銀輪や吉備に広ぐるれんげ草 叶堂三恵子
母の日のお手伝ひ券古りにけり 武藤 晴子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
木漏れ日の匂ひ仄かに春惜しむ 瀬戸けい子
玉砂利に大樹の影や南吹く 矢野いつゑ
愉快なる母の豆笛夏に入る 齋藤 靖恵
春夕焼部活の筆を洗ひをり 菅原 理恵
産土の千木の空へと夏燕 浜野真李花
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<7月> 【885】
春愁の色もつれ合ふ刺繍糸 淺田 洋子
春一番バターの走るフライパン 粟屋紀佐子
縁側に兄の背見ゆる彼岸かな 柿川 節子
春場所に次ぎ空爆を放映す 小路 律子
蚕豆の青きをつまむ三時かな 長谷川晶子
春うれひあれやこれやのパスワード 藤本 陽子
雛まつりハムも卵もハート型 升田 浩子
処理水の染み込んでゆく朧かな 水内 和子
コロナ禍の無為に慣れゐて春炬燵 安田 一枝
ポケットの大き前掛け水温む 渡辺 春枝
~”夕凪作品Ⅰ”から~
弥次喜多もふらりと寄るよ菜飯茶屋 廣藤 景子
草餅やつま先立ちの背くらべ 樋藤 純子
井の中の蛙は今も井の中か 浦島 恭子
春障子遺品減りゆく夫の部屋 有田 幸恵
春宵やしみじみ含む白ワイン 平石 かよ子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
無住寺の庭に起重機蕗の薹 久保 勝子
旅ごころ込めて畳みし春日傘 半田 白鈴
スマホ不要土筆二本をポケットに 浜野真李花
通勤の自転車煽る燕かな 齋藤 靖恵
「うちの猫寝言いひます」春の昼 坂木 寿枝
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<6月> 【884】
祖父で父夫で無害でかげろへる 安部 弘
ドロップ缶振って佐保姫起こしけり 有井まさ子
白酒の辛口欲しと壇のこゑ 石川まゆみ
食初めの真中にしかと桜鯛 植木すみ子
韃靼を恋う嘶きか黄砂降る 神庭 千世
亀鳴くやこうして戦始まるか 木佐 幸枝
春日和河馬のあくびをもらひたる 角 葉づき
青き踏むいくさなき世をいくそたび 伊達みえ子
裸の王様おぼろの夜の鏡の間 水口 佳子
ボール蹴る音に濁りのある余寒 安田 恭子
~”夕凪作品Ⅰ”から~
春浅き海辺は龍の匂ひせむ 中村 峯子
赤ちやんのだつこねだる目いぬふぐり 伊藤 登
蠟梅の香り盗人しづしづと 松崎 文子
春霞故人ばかりの小津映画 定成 俊明
山深き富山立山はだれ雪 廣藤 景子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
早春の日だまりへ置く植木鉢 浜野真李花
それぞれの着信音やクロッカス 坂木 寿枝
初虹やほほ笑みかへす道祖神 矢野いつゑ
瘤多き木に浅春の息吹かな 半田 白鈴
暖かや指を栞にまぶた閉ぢ 吉尾 隆恵
~”夕凪俳句《白雲集》”から~
<5月> 【883】
湯上りのけはいの如し芽吹山 飯野 幸雄
日脚伸ぶファをくり返す調律師 神庭 千世
焼べ足して薪ストーブを守る漢 小西佐和子
掌に受けてまだほの温き寒卵 佐藤 房子
よくもまあ積もりしものよ深雪晴 角 葉づき
梅三分日々に知恵づく幼き子 谷本喜代子
春立つや昭和の恋は角砂糖 戸板 幽詩
蠟梅のふくらめば香のふくらみぬ 藤本智恵子
一語一語頷く禅語室の花 三上フミヱ
五月憂し付き合はさるる指相撲 村本 恭三
~”夕凪作品Ⅰ”から~
身の内か外か寒風聞こえをり 浦島 恭子
熱燗や始まる父の武勇伝 守屋 直子
人日や子に倣ひたる靴磨き 松崎 文子
むずむずと泥かく鯉や春隣り 伊藤千鶴子
雲の間に清らかなあを寒の明 平石かよ子
~”夕凪作品Ⅱ”から~
恋猫や木場に丸太の落つる音 齋藤 靖恵
古草やイヤホン分ちボサノヴァを 浜野真李花
バリウムのぬるりぬめりと寒の入 吉尾 隆恵
春兆す屋根も日の色能舞台 矢野いつゑ
切り裂くや北京の空をスノボーが 矢田部博人
~”夕凪俳句《白雲集》”から~